わかりみ.com陸上特殊無線技士編

第3級陸上特殊無線技士【無線工学・前編】|基礎・変調方式・送信機・受信機

対象読者: 無線の知識がほとんどない初学者の方 試験科目: 無線工学(12問・75%以上=9問以上正解で合格) 試験方式: CBT方式(全国300以上の試験会場で随時受験可能) 合格率: 85〜90%程度(正しい学習をすれば十分合格できます) 学習時間の目安: 10〜20時間 本記事の範囲: 無線工学の基礎/変調方式/送信機/受信機


はじめに

第3級陸上特殊無線技士(以下、三陸特)は、タクシー・警察・消防などの業務用無線や、携帯電話基地局の操作に必要な資格です。無線の世界への入門として最適な資格で、難易度もそれほど高くありません。

無線工学の試験は、8つの分野(無線工学の基礎・変調方式・送信機・受信機・送受信方式と装置・電波伝搬・電源・測定)から出題されます。本記事(前編)では、このうち無線工学の基礎・変調方式・送信機・受信機の4分野を、初学者にもわかりやすく解説します。


第1章:無線工学の基礎

電波とは何か

電波とは、空間を伝わる電磁波の一種で、周波数が3THz(300万MHz)以下のものを指します(電波法第2条)。光や熱も電磁波ですが、電波はその中でも特に周波数が低い(波長が長い)領域です。

電波は次の3つの要素で特徴づけられます。

要素 説明 単位
周波数(f) 1秒間に繰り返す波の数 Hz(ヘルツ)
波長(λ) 波1つ分の長さ m(メートル)
電波の速度(c) 光速と同じ約30万km/s m/s

周波数と波長の関係式(超重要!)

$$c = f \times \lambda$$

ここで c = 3×10⁸ m/s(光速) です。

計算例: 150MHzの電波の波長は?

$$\lambda = \frac{c}{f} = \frac{3 \times 10^8}{150 \times 10^6} = 2 \text{ m}$$

この式は試験に必ず出ます。しっかり覚えましょう。

周波数帯の区分(周波数帯名称)

周波数帯 名称 略称 波長
3〜30kHz 超長波 VLF 10〜100km
30〜300kHz 長波 LF 1〜10km
300〜3000kHz 中波 MF 100m〜1km
3〜30MHz 短波 HF 10〜100m
30〜300MHz 超短波 VHF 1〜10m
300〜3000MHz 極超短波 UHF 10cm〜1m
3〜30GHz マイクロ波 SHF 1〜10cm

三陸特で主に使用するのはVHF・UHF帯です。 タクシー無線(150MHz帯)や携帯電話(700MHz〜3.5GHz帯)はこの帯域に属します。

オームの法則

電気回路の基本中の基本です。

$$V = I \times R$$

  • V:電圧(ボルト・V)
  • I:電流(アンペア・A)
  • R:抵抗(オーム・Ω)

電力の計算

電力 P(ワット)は次の式で表されます。

$$P = V \times I = \frac{V^2}{R} = I^2 \times R$$

計算例: 抵抗50Ωに10Vをかけたときの電力は?

$$P = \frac{V^2}{R} = \frac{10^2}{50} = \frac{100}{50} = 2 \text{ W}$$

デシベル(dB)表現

無線工学ではdBという単位がよく使われます。デシベルは電力の比率を対数で表したものです。

$$\text{dB} = 10 \log_{10} \frac{P_2}{P_1}$$

よく使う値は覚えておきましょう:

電力比 dB値
2倍 約3dB
4倍 約6dB
10倍 10dB
100倍 20dB
1000倍 30dB

電力が2倍になるごとに約3dB増加する、という感覚を身につけておくと便利です。

直列接続と並列接続

抵抗の直列接続: R_合成 = R₁ + R₂(合成抵抗は増加)

抵抗の並列接続: 1/R_合成 = 1/R₁ + 1/R₂(合成抵抗は減少)

2つの等しい抵抗Rの並列: R_合成 = R/2


第2章:変調方式

変調とは何か

変調(モジュレーション)とは、音声などの情報を電波に乗せるための技術です。情報を乗せる前の電波を「搬送波(キャリア)」といい、情報を乗せた後を「変調波」といいます。

搬送波を変化させる方法によって変調方式が分類されます。

AM(振幅変調)

AMとは Amplitude Modulation(振幅変調) の略で、搬送波の**振幅(強さ)**を音声に応じて変化させる方式です。

項目 内容
原理 搬送波の振幅を信号に応じて変化
代表的用途 ラジオのAM放送(中波帯)
帯域幅 信号帯域幅の2倍
雑音耐性 低い(雑音の影響を受けやすい)
回路構造 比較的シンプル

AMの変調度(m):

$$m = \frac{A_{\max} - A_{\min}}{A_{\max} + A_{\min}} \times 100 , [%]$$

変調度が100%を超えると「過変調」となり、電波が歪んで隣接チャネルへの混信の原因になります。

FM(周波数変調)

FMとは Frequency Modulation(周波数変調) の略で、搬送波の周波数を音声に応じて変化させる方式です。

項目 内容
原理 搬送波の周波数を信号に応じて変化
代表的用途 FM放送(VHF帯)、業務用無線(タクシー・消防)
帯域幅 AMより広い(占有帯域幅が大きい)
雑音耐性 高い(AMに比べ雑音に強い)→ 高音質
振幅制限 振幅が一定なので、リミッタ回路で雑音除去が可能

試験頻出ポイント: 「FMはAMに比べて雑音に強い」「FMはAMより広い帯域幅が必要」は繰り返し出題されます。

FMにおいて、音声信号の振幅が大きいほど周波数偏移(搬送波周波数からのずれ幅)が大きくなります。音声信号の周波数が変わっても偏移量は変わらず、**偏移の速さ(変化の速度)**が変わります。

SSB(単側波帯変調)

SSBとは Single Side Band(単側波帯) の略です。AM波は上側波帯・下側波帯・搬送波の3成分を持ちますが、SSBはそのうち片方の側波帯だけを送信します。

  • 帯域幅がAMの半分以下
  • 電力効率が高い(搬送波分の電力を節約)
  • 短波(HF)帯の通信でよく使われる

第3章:送信機

FM送信機の構成(試験最重要!)

三陸特で扱う業務用無線の多くはFM方式です。FM送信機の構成はブロック図とその順序が非常によく出題されます。

マイク → 低周波増幅 → IDC回路 → FM変調器 → 周波数逓倍 → 電力増幅 → アンテナ

各ブロックの役割:

ブロック 役割
マイク 音声を電気信号に変換する
低周波増幅 マイクからの微弱な音声信号を増幅する
IDC回路 瞬時偏移制御(Instantaneous Deviation Control)。周波数偏移が最大許容値を超えないよう制限し、電波の帯域外漏れを防ぐ
FM変調器 音声信号に応じて搬送波の周波数を変化させる。発振器と一体化していることが多い
周波数逓倍 変調波の周波数を整数倍(2倍、3倍など)にする。逓倍することで周波数偏移も同時に拡大される
電力増幅 送信に必要な電力レベルまで増幅する

試験頻出ポイント: FM送信機の構成ブロックを選ぶ問題では、IDC回路の有無が正誤を分けるケースがあります。「低周波増幅→IDC→FM変調器→周波数逓倍→電力増幅」の順序を覚えましょう。

周波数逓倍器の役割

周波数逓倍器は発振器で作った低い周波数を整数倍にして、目的の送信周波数にする装置です。

重要な性質: 逓倍するとき、周波数偏移も同じ倍率で拡大されます。

計算例: 発振器の出力が12.5MHzで周波数偏移が±1kHz、逓倍を12倍(3倍×2倍×2倍)行った場合

  • 送信周波数:12.5 × 12 = 150 MHz
  • 周波数偏移:±1 × 12 = ±12 kHz

AM送信機の構成(参考)

AM送信機は三陸特では出題頻度が低いですが、基本を理解しておくと変調方式の違いを整理しやすくなります。

マイク → 低周波増幅 → 変調器(搬送波の振幅を変化)→ 電力増幅 → アンテナ
                          ↑
                      搬送波発振器

FM送信機との違いは、AM送信機にはIDC回路や周波数逓倍器がない点です。


第4章:受信機

スーパーヘテロダイン受信機(最重要!)

現代の無線受信機の多くはスーパーヘテロダイン方式です。名前は難しそうですが、仕組みを理解すれば試験で必ず得点できます。

信号の流れ:

アンテナ → 高周波増幅 → 周波数混合 → 中間周波増幅 → 検波 → 低周波増幅 → スピーカー
                            ↑
                        局部発振器

各ブロックの役割:

ブロック 役割
高周波増幅(RF増幅) 受信した微弱な電波を増幅する。バンドパスフィルタで不要信号を除去
周波数混合(ミキサ) 受信周波数と局部発振周波数を混合し、中間周波数(IF)に変換
局部発振器 ミキサに供給する基準信号を発振する
中間周波増幅(IF増幅) 変換後の一定周波数(中間周波数)を安定して増幅。選択性に寄与
検波(復調) 変調波から音声信号を取り出す(FMの場合は周波数弁別器を使用)
低周波増幅 取り出した音声信号を増幅してスピーカーへ

スーパーヘテロダイン方式のメリット

なぜわざわざ中間周波数に変換するのか? それは以下のメリットがあるからです。

  • 安定した増幅: 受信周波数が変わっても、中間周波段は常に同じ周波数で動作するため安定
  • 高い選択性: 中間周波段のフィルタで隣接する不要な信号を効率よく除去
  • 感度の向上: 低い周波数のほうが高利得の増幅が容易

中間周波数(IF)

**中間周波数(IF)**は、FM放送受信機では一般的に 10.7MHz が使われます。

$$f_{IF} = |f_{受信} - f_{局発}|$$

計算例: 受信周波数145MHz、局部発振周波数155.7MHzの場合 $$f_{IF} = 155.7 - 145 = 10.7 \text{ MHz}$$

イメージ周波数妨害(影像周波数妨害)

スーパーヘテロダイン受信機では、目的信号だけでなくイメージ周波数からの信号も同じ中間周波数に変換されてしまうという問題があります。

イメージ周波数の求め方: $$f_{イメージ} = f_{受信} + 2 \times f_{IF} \quad \text{(局発が受信周波数より高い場合)}$$

計算例: 受信周波数145MHz、IF = 10.7MHz の場合 $$f_{イメージ} = 145 + 2 \times 10.7 = 145 + 21.4 = 166.4 \text{ MHz}$$

イメージ妨害は、高周波増幅部の**バンドパスフィルタ(BPF)**で目的以外の周波数を除去することにより防止します。

FM受信機の3大特性

FM受信機の性能は以下の3つの指標で評価されます。試験でもよく問われます。

特性 内容
感度 どれだけ微弱な信号を受信できるか。雑音の中から信号を取り出す能力
選択度(選択性) 目的の周波数だけを選び出す能力。隣接チャネルの信号を排除する能力
忠実度(忠実性) 原音をどれだけ正確に再現できるか。音声の歪みの少なさ

前編まとめ

前編では、無線工学の基礎(電波の性質・周波数と波長・オームの法則・dB)、変調方式(AM・FM・SSB)、FM送信機の構成(IDC回路を含む)、スーパーヘテロダイン受信機の仕組みを解説しました。

特に以下のポイントは確実に押さえましょう。

  • 周波数と波長の関係式 c = f × λ
  • dBの計算(2倍→3dB、10倍→10dB)
  • AM・FM・SSBの特徴の違い
  • FM送信機のブロック構成と順序(IDC回路の位置)
  • スーパーヘテロダイン受信機の各ブロックの機能
  • 中間周波数・イメージ周波数の計算
  • FM受信機の3大特性(感度・選択度・忠実度)

後編では、送受信方式と装置(アンテナ・給電線)・電波伝搬・電源・測定について解説します。


本記事は試験対策を目的とした学習用コンテンツです。最新の試験情報は日本無線協会の公式サイトでご確認ください。

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