わかりみ.com陸上特殊無線技士編

第2級陸上特殊無線技士【無線工学・前編】完全攻略ガイド|基礎・変調・送受信機

対象読者: 第3級陸上特殊無線技士の知識をお持ちの方 試験科目: 無線工学(24問・65%以上=16問以上正解で合格) 試験方式: CBT方式(全国300以上の試験会場で随時受験可能) 合格率: 70〜75%程度(三陸特より難しいが十分合格可能) 学習時間の目安: 30〜50時間 本記事の範囲: 無線工学の基礎・変調方式・送信機・受信機


はじめに

第2級陸上特殊無線技士(二陸特)は、三陸特の上位資格です。操作できる無線局の範囲が広がり、基地局の開設・操作や、より高度な無線通信に携わることができます。特に近年は携帯電話の基地局の設置・運用に携わる職種で広く求められており、通信インフラを支える重要な資格です。

三陸特で学んだ「周波数と波長の関係」「スーパーヘテロダイン受信機」「変調の基礎」は二陸特でも基本として使われます。本記事(前編)では、三陸特の知識を前提に、二陸特で新たに必要になる無線工学の基礎理論・変調方式・送信機・受信機に関する知識を解説します。後編では送受信方式・装置、電波伝搬、電源、測定を扱います。


第1章:無線工学の基礎 ― デジタル通信の原理

なぜデジタル通信が主流になったか

三陸特ではAM・FM・SSBといったアナログ変調を学びましたが、現代の無線通信の多くはデジタル方式に移行しています。デジタル通信には次のようなメリットがあります。

  • 高品質: 雑音に強く、長距離でも品質が劣化しにくい
  • 高効率: 誤り訂正符号を付加して伝送品質を改善できる
  • 秘話性: 暗号化処理が容易に適用できる
  • 多重化: 一つの周波数帯を複数のユーザーで効率よく共用できる

これらの利点から、携帯電話・Wi-Fi・デジタル業務無線など、現在の主要な無線通信はほぼすべてデジタル方式を採用しています。

アナログ信号のデジタル化(PCM)

アナログ音声をデジタル信号に変換する基本プロセスを**PCM(Pulse Code Modulation:パルス符号変調)**といいます。PCMは以下の3つのステップで構成されます。

アナログ信号
  ↓ ① 標本化(サンプリング)
標本値(連続的な時間軸を離散的にする)
  ↓ ② 量子化
量子化値(連続的な振幅を有限段階に丸める)
  ↓ ③ 符号化(エンコード)
デジタル符号(0と1のビット列に変換)

この3ステップの順序と各ステップの役割は試験で繰り返し出題されます。特に「標本化→量子化→符号化」という順序を正確に覚えることが重要です。

標本化定理(ナイキストの定理)

アナログ信号を正確にデジタル化するには、元の信号の最高周波数の2倍以上の速度でサンプリングする必要があります。これをナイキストの定理(標本化定理)といいます。

$$f_s \geq 2 \times f_{max}$$

例: 電話音声の最高周波数が4kHzの場合、必要なサンプリング周波数は?

$$f_s \geq 2 \times 4{,}000 = 8{,}000 \text{ Hz} = 8 \text{ kHz}$$

このため、電話のPCM(G.711規格)では8kHzでサンプリングされます。もしサンプリング周波数が最高周波数の2倍に満たない場合、元の信号を正しく復元できず、エイリアシング(折り返し雑音)と呼ばれる歪みが発生します。

試験頻出ポイント: 過去問では「サンプリング周波数は信号の最高周波数の何倍以上か」を問う問題が定番です。答えは「2倍以上」です。

量子化とビット数

量子化とは、標本化で得られた連続的な振幅値を有限の段階に丸める処理です。量子化のビット数(n)によって表現できる段階数(2ⁿ)が決まります。

ビット数(n) 量子化段階数(2ⁿ) 主な用途
8 bit 256段階 電話音声(G.711規格)
16 bit 65,536段階 音楽CD(CD-DA)
24 bit 約1,677万段階 プロ用スタジオ録音

ビット数が多いほど原音に近い品質が得られますが、データ量も比例して増加します。

ビットレートの計算(試験頻出)

PCMのビットレートは以下の式で求められます。

$$\text{ビットレート [bps]} = f_s \times n$$

ここで $f_s$ はサンプリング周波数 [Hz]、$n$ は量子化ビット数です。

計算例: サンプリング周波数8kHz、量子化8bitの電話音声のビットレートは?

$$\text{ビットレート} = 8{,}000 \times 8 = 64{,}000 \text{ bps} = 64 \text{ kbps}$$

この「64kbps」は電話回線1チャネルの基本速度であり、試験でも定番の計算問題です。

応用計算例: サンプリング周波数44.1kHz、量子化16bitのステレオ音楽CDのビットレートは?

$$\text{ビットレート} = 44{,}100 \times 16 \times 2\text{(ステレオ)} = 1{,}411{,}200 \text{ bps} \approx 1.41 \text{ Mbps}$$

量子化雑音

量子化の際に、連続的な振幅値を有限段階に丸めるため、元の値との間に必ず誤差が生じます。これを**量子化雑音(量子化誤差)**といいます。

量子化の段階数を増やす(ビット数を上げる)ほど量子化雑音は小さくなります。重要な関係として、ビット数を1bit増やすごとに、信号対量子化雑音比(SQNR)は約6dB改善します。

ビット数の増加 SQNR改善量
+1 bit +6 dB
+2 bit +12 dB
+4 bit +24 dB

第2章:変調方式 ― デジタル変調の世界

デジタル変調方式の概要

三陸特ではAM・FMといったアナログ変調を学びました。二陸特ではさらに、デジタル信号(0と1)を電波に乗せるためのデジタル変調方式が重要なテーマになります。

変調方式 正式名称 変化させるパラメータ アナログ変調との対応
ASK Amplitude Shift Keying 振幅 AM(振幅変調)に対応
FSK Frequency Shift Keying 周波数 FM(周波数変調)に対応
PSK Phase Shift Keying 位相 PM(位相変調)に対応
QAM Quadrature Amplitude Modulation 振幅+位相 ―(組み合わせ方式)

FSK(周波数偏移変調)

FSKは、デジタルの「0」と「1」に対応して搬送波の周波数を切り替える方式です。

  • FM変調のデジタル版と考えることができる
  • 比較的シンプルな回路で実現可能
  • 雑音耐性が比較的高い
  • APRS(アマチュア無線の位置情報通信)やページャなどで使用

2値FSK(2FSK)では2種類の周波数を使い、4値FSK(4FSK)では4種類の周波数を使って1シンボルあたり2ビットを伝送します。

PSK(位相偏移変調)

PSKは、デジタル信号の値に応じて搬送波の位相を変化させる方式です。FSKよりも周波数利用効率が高く、デジタル通信の中核をなす変調方式です。

BPSK(2相PSK / Binary PSK):

  • 0°と180°の2種類の位相を使用
  • 1シンボルで1ビット伝送
  • 雑音耐性が最も高い(PSKの中で)
  • 深宇宙通信など、極端にSNRが低い環境で使用

QPSK(4相PSK / Quadrature PSK):

  • 0°、90°、180°、270°の4種類の位相を使用
  • 1シンボルで2ビット伝送
  • BPSKと同じ帯域幅で2倍の情報を伝送できる
  • 衛星通信やLTEの制御チャネルなどで広く使用

8PSK:

  • 8種類の位相を使用
  • 1シンボルで3ビット伝送
  • QPSKより高効率だが雑音に弱くなる

試験頻出ポイント: 過去問では「QPSKはBPSKと同じ帯域幅で2倍の情報量を伝送できる」という記述の正誤問題が頻出します。これは正しい記述です。

QAM(直交振幅変調)

QAMは振幅と位相の両方を組み合わせてデジタル信号を伝送する方式です。多値数が大きくなるほど1シンボルで送れるビット数が増えます。

QAM方式 信号点の数 1シンボルあたりのビット数 主な用途
16QAM 16 4ビット 地上デジタル放送、LTE
64QAM 64 6ビット Wi-Fi、LTE
256QAM 256 8ビット Wi-Fi(IEEE 802.11ac)

多値化するほど伝送効率(周波数利用効率)は上がりますが、信号点間の距離が近くなるため雑音や歪みに対する耐性が低下します。高いSNR(信号対雑音比)が確保できる良好な環境でなければ高次のQAMは使えません。

IQ平面(コンスタレーション)

デジタル変調の信号は、**I成分(同相成分)Q成分(直交成分)の2軸で表現できます。この2次元平面上に信号点を配置した図をコンスタレーション(信号点配置図)**といいます。

コンスタレーション上で信号点同士が離れているほど雑音耐性が高く、密集しているほど誤りが起きやすくなります。試験では「16QAMのコンスタレーションは4×4の格子状に配置される」という知識が問われることがあります。


第3章:送信機 ― 電力増幅の技術

送信機の基本構成

デジタル無線送信機の基本構成は以下の通りです。

デジタル信号 → ベースバンド処理 → DA変換 → 変調器 → 電力増幅器(PA) → アンテナ

ベースバンド処理には、誤り訂正符号の付加、インターリーブ(データの並べ替え)、デジタル変調のためのシンボルマッピングなどが含まれます。最終段の電力増幅器でアンテナから送出するのに十分な電力レベルまで増幅します。

電力増幅器(PA:Power Amplifier)

電力増幅器は送信機の最終段に設けられ、アンテナから送出する電力を所定のレベルに増幅する回路です。

効率(η)の計算(試験頻出):

$$\eta = \frac{P_{out}}{P_{DC}} \times 100 , [%]$$

ここで $P_{out}$ は出力電力(高周波出力)、$P_{DC}$ は直流入力電力です。直流入力電力は次のように計算します。

$$P_{DC} = V_{CC} \times I_{CC}$$

$V_{CC}$は電源電圧、$I_{CC}$はコレクタ電流(またはドレイン電流)です。

計算例: 電源電圧12V、コレクタ電流2A、高周波出力16Wの電力増幅器の効率は?

$$P_{DC} = 12 \times 2 = 24 \text{ W}$$

$$\eta = \frac{16}{24} \times 100 = 66.7%$$

電力増幅器のクラス分類

電力増幅器はバイアス点の設定(動作角)によってクラスが分かれます。

クラス 動作角 最大理論効率 歪み特性 主な用途
A級 360°(全区間) 50% 歪みが最も少ない 小信号増幅、受信機
B級 180°(半区間) 78.5% 中程度の歪み プッシュプル回路で使用
AB級 180°〜360° 50〜78.5% A級とB級の中間 オーディオ増幅器
C級 180°未満 最大約85% 歪みが大きい FM送信機の終段

各クラスのポイント:

A級は入力信号の全期間にわたって増幅素子が動作するため、歪みは少ないですが効率が低く、大電力の送信機には不向きです。

B級は半周期だけ動作するため、単体では波形が大きく歪みます。そこで2つのトランジスタをプッシュプル構成(正の半周期と負の半周期をそれぞれ別のトランジスタで増幅し合成する)にして使用します。

C級は動作角が180°未満と狭いため歪みが最も大きいですが、効率が最も高くなります。歪みが大きいためリニアリティが求められないFM送信機で使用されます。FMでは振幅変動に情報を含まないため、C級増幅による振幅の歪みは問題になりません。

試験頻出ポイント: 「C級増幅器はFM送信機で使用される」「A級増幅器は歪みが少ないが効率が低い」「B級増幅器はプッシュプル構成で使用される」は過去問の定番です。

リニア増幅器の必要性

PSKやQAMのように振幅に情報を含む変調方式では、増幅器の非線形特性によって信号が歪むと情報が失われます。そのためこれらの方式ではリニア(線形)増幅器が必要です。具体的にはA級またはAB級の増幅器を使い、非線形歪みを補正する**プリディストーション(事前歪み補正)**技術を併用することが一般的です。


第4章:受信機 ― 信号を正しく受け取る技術

スーパーヘテロダイン受信機の復習と発展

三陸特で学んだスーパーヘテロダイン受信機は二陸特でも重要です。基本構成を改めて確認しましょう。

アンテナ → 高周波増幅器(RF Amp) → 周波数混合器(Mixer) → 中間周波増幅器(IF Amp)
   → 復調器(Detector) → 低周波増幅器(AF Amp) → スピーカー
              ↑
         局部発振器(Local Oscillator)

受信周波数と局部発振周波数を混合して中間周波数(IF)に変換し、IFフィルタで選択度を高める方式です。

イメージ周波数(影像周波数)の計算

スーパーヘテロダイン受信機の弱点の一つがイメージ周波数です。目的の周波数 $f_s$ を受信するとき、局部発振周波数を $f_{LO}$、中間周波数を $f_{IF}$ とすると、イメージ周波数 $f_{img}$ は次のようになります。

$$f_{img} = f_s + 2 \times f_{IF}$$

(局部発振周波数が受信周波数より高い場合、すなわち $f_{LO} = f_s + f_{IF}$ のとき)

計算例: 受信周波数150MHz、中間周波数10.7MHzの場合のイメージ周波数は?

$$f_{img} = 150 + 2 \times 10.7 = 171.4 \text{ MHz}$$

イメージ周波数の信号が混入すると妨害が発生するため、高周波増幅器の前段で**プリセレクタ(高周波フィルタ)**により除去します。中間周波数が高いほどイメージ周波数と受信周波数の差が大きくなり、フィルタでの除去が容易になります。

AGC(自動利得制御)

受信信号のレベルは、送信側との距離や伝搬環境によって大きく変動します。AGC(Automatic Gain Control:自動利得制御)は、受信レベルにかかわらず一定の出力が得られるよう自動的に増幅度を調整する回路です。

動作原理:

  • 復調器の出力レベルを検出する
  • 出力レベルが大きい(強い信号)→ IF増幅器のゲインを下げる
  • 出力レベルが小さい(弱い信号)→ IF増幅器のゲインを上げる
  • 結果として、出力が常にほぼ一定に保たれる

AGCがなければ、近距離の強い信号で受信機が飽和したり、遠距離の弱い信号が聞こえなかったりします。AGCは受信機の安定した動作を保証する不可欠な回路です。

試験頻出ポイント: AGCの動作原理について「受信入力が強い時に利得を下げ、弱い時に利得を上げる」という記述の正誤が問われます。

スケルチ回路

スケルチ(Squelch)回路は、**受信信号が一定レベル以下のとき、スピーカーへの出力をミュート(消音)**する回路です。

無線通信では、相手局が送信していない間は受信機に信号が入りません。この状態では受信機の内部雑音がそのまま増幅され、「ザー」という大きな雑音がスピーカーから出力されます。スケルチ回路はこの不快な雑音を防ぎます。

スケルチの種類:

種類 方式 特徴
キャリアスケルチ 受信信号レベルで制御 最も基本的な方式
トーンスケルチ(CTCSS) 特定の低周波トーンで制御 グループ通話に使用
デジタルスケルチ(DCS) デジタルコードで制御 CTCSSより多くのコード

業務用無線機では、スケルチレベルの適切な設定が基本操作の一つです。スケルチレベルを高くしすぎると弱い信号を受信できなくなり、低くしすぎると雑音がスピーカーから出力されます。

SDR(ソフトウェア無線)

従来の無線機は、変復調の処理をハードウェア(アナログ回路やデジタルICなど)で行っていました。SDR(Software Defined Radio:ソフトウェア無線)は、AD/DAコンバータで信号をデジタル化し、処理の大部分をソフトウェア(DSP:デジタル信号処理)で実現する技術です。

SDRのメリット:

  • ソフトウェアの変更だけで、異なる変調方式・プロトコルに対応可能
  • ソフトウェア更新(アップデート)で機能追加・性能改善が容易
  • ハードウェアの共通化により製造コストを削減
  • 複数の通信方式を1台の装置で同時にサポート可能

SDRの適用例:

  • 携帯電話基地局(LTE・5Gなど複数規格に対応)
  • 軍事通信(柔軟な周波数・方式変更が要求される)
  • コグニティブ無線(空いている周波数を自動で探して利用)

試験頻出ポイント: SDRについて「ソフトウェアの変更により複数の通信方式に対応できる」「ハードウェアを変更せずに機能追加が可能」という記述が過去問で出題されています。


前編のまとめと試験対策

この範囲の頻出テーマ

順位 テーマ 出題形式
1 PCMの3ステップとサンプリング定理 穴埋め・正誤
2 ビットレートの計算(fs × n) 計算問題
3 デジタル変調方式の比較(FSK/PSK/QAM) 正誤・選択
4 電力増幅器のクラスと効率 正誤・計算
5 AGC・スケルチの動作原理 正誤問題
6 SDRの特徴 正誤問題
7 イメージ周波数の計算 計算問題

重要公式チェックリスト

  • 標本化定理:$f_s \geq 2 \times f_{max}$
  • ビットレート:ビットレート = $f_s \times n$
  • 電力増幅器効率:$\eta = P_{out} / P_{DC} \times 100%$
  • 直流入力電力:$P_{DC} = V_{CC} \times I_{CC}$
  • イメージ周波数:$f_{img} = f_s + 2 \times f_{IF}$
  • 量子化SQNR改善:+1bit ≈ +6dB

本記事は試験対策を目的とした学習用コンテンツです。後編(送受信方式・装置/電波伝搬/電源/測定)と合わせてご活用ください。最新の試験情報は日本無線協会の公式サイトでご確認ください。

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